大切な愛犬がクッシング症候群になった時、殆どの場合、治療薬は生涯に渡って飲むことになります。
治療薬は高価ですし、処方される量は適量でなければ命に関わることがあるため、定期的な検査が必要になり、その検査費用もかなりの金額になります。
その為、治療を断念したり、ドロップアウトをしなければいけない状況になることもあります。
ワンちゃんがクッシング症候群になってしまった時、一生飲み続けなければならない投薬をするのか迷うかもしれません。
我が家の愛犬もクッシング症候群になりましたが、そのお薬がどんなものか、どんな副作用があるのか私は知りませんでした。
ただ、処方されるお薬を飲ませ、検査をし、薬を飲ませるということを続けていました。
もちろん、獣医さんに任せるしかないのですが、詳しい説明を全ての獣医さんが最初にされるわけではありません。
されたとしても、理解できないかもしれません。
でも、予備知識があれば、治療方法を選ぶことや疑問点も獣医さんに的確に質問することができます。
ここでは、クッシング症候群の治療薬がどういうものなのか、どんな副作用があるのか、そして、本当に治療を始めるべきなのか、クッシング症候群の治療薬と副作用について詳しく説明しますね。

犬のクッシング症候群の治療薬の効果と副作用は?
クッシング症候群の治療方法は?
クッシング症候群を治療する場合、発症の原因によって治療方法が3つあります。
- 下垂体依存性副腎皮質機能亢進症
- 副腎腫瘍
- ステロイドホルモン剤の過剰投与
1. 下垂体依存性副腎皮質機能亢進症
クッシング症候群のほとんどの原因である下垂体依存性副腎皮質機能亢進症は、副腎を管理している下垂体(脳の一部)にできた腫瘍のために、副腎からコルチゾール(副腎皮質ホルモン)が過剰に分泌されます。
下垂体腫瘍が小さい場合は、飲み薬でコルチゾールを抑制します。
大きい場合は、放射線治療で腫瘍を小さくした後に投薬する場合もあります。
2. 副腎腫瘍
外科手術で副腎を取り出します。
3. ステロイドホルモン剤の過剰投与
皮膚の炎症治療などで長期に渡って使用しているステロイド(副腎皮質ホルモン剤)が原因の場合は、ステロイドを徐々に減らしていきます。
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クッシング症候群の治療薬と副作用はどんなものがあるの?
クッシング症候群に投与される主な治療薬はトリロスタンとミトタンです。
それ以外に、ケトコナゾールとL-デプリニルがあります。
*トリロスタン(共立製薬)
・製品名:デソパン(持田製薬)またはアドレスタン(共立製薬)
人の副腎皮質機能亢進症の治療で作られた薬剤でしたが、人にはあまり効果がなく、犬には効果が認められています
・効能・効果:副腎皮質ステロイドホルモン生合成酵素の一つである3βヒドロキシステロイド脱水素酵素を阻害することにより、ステロイドホルモンの合成を抑制
・副作用:食欲低下・下痢・軟便・副腎皮質の肥大・運動不耐性・体の震え・多尿・漏尿・多渇・皮膚疾患・膀胱炎・てんかん様発作・虚脱・多色・皮膚疾患・副腎皮質機能低下症(アジソン病)・低ナトリウム血症・高カリウム血症
高用量の場合、活動性の低下・血様便・嘔吐・体重減少・呼吸数、心拍数の低値、死亡例もあります。
このように書くと副作用が強い薬のように思われますが、副作用は比較的少ない薬と言われています。
副作用は少ないのですが、投薬を中止すると臨床症状がすぐ再発してしまうため、継続的な投薬が必要であること、費用が高いことがデメリットです。
*ミトタン(o,p’-DDD)
製品名:オペプリム
効能・効果:副腎皮質を破壊・萎縮してコルチゾル産生を減少させる
3分の1は、寛解後に再発することなく良好に経過しますが、再発した場合は、再度の寛解導入と維持治療を必要とします。
※寛解とは、「完全に治った」とは言い切れないが、「病気を抑えることができている」という意味で使われる
副作用:食欲不振・嘔吐・γ-GTP上昇・腎障害・肝機能障害・血清コレステロール上昇・副腎皮質機能低下症(アジソン病)
長期連続大量投与により、脳の機能障害を起こすことがあります。
ミトタンよりもトリロスタンの方が副作用が少ないため、ほとんどの病院がトリロスタンを処方しています。
*ケトコナゾール(副腎酵素の阻害)
イミダゾール系薬剤に分類される抗真菌薬(経口剤)
効能・効果:チトクローム P450を可逆的に阻害し、ステロイドホルモンの合成を抑制します
副作用:食欲不振・下痢・肝障害・血小板減少
OP-DDD(ミトタン)等が効かない時、ケトコナゾールの投薬をする場合がありますが、より副作用が強くでることがあります
*L-デプリニル(ACTH放出の阻害)
効能・効果:ACTH 分泌を抑制
人のパーキンソン病治療薬で、かなり高価な薬剤です。
有効例では1~2週間症状が改善しますが、長期投与をすると薬剤が効かなくなります。
副作用:低血糖・嘔吐、下痢・食欲不振、口渇

トリロスタンとケトコナゾールはどちらが有効?
トリロスタンとケトコナゾールの違いは?
副腎からステロイドホルモン(主にコルチゾール)がですぎることで起こるクッシング症候群(下垂体性副腎皮質機能亢進症)ですが、副腎がステロイドホルモンを作るためには、コレステロールといくつかの酵素が必要です。
トリロスタンもケトコナゾールもこのような酵素を阻害する(酵素の働きを邪魔する)薬ですが、阻害する酵素の種類が違います。
トリロスタンが阻害するのは、3β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素、ステロイドホルモンを作るためだけにあると言っても良いくらいの酵素です。その為、副作用が少ないのではないかと言われています。
ケトコナゾールが阻害するチトクロームP450という酵素は、副腎だけでなく、様々な臓器の大切な働きをしています。特に、肝臓の解毒作用のためには、なくてはならない酵素です。それを阻害するのですから、副作用もトリロスタンより強くでます。
ケトコナゾールよりトリロスタンを投与すべき?
トリロスタンは効果が高く副作用が少ない薬ですが、薬である以上、効果には個体差(個人差)があります。トリロスタンはとても高価な薬であるため、大型犬になると費用がかなりかさみます。

クッシング症候群の治療は本当にした方がいいの?
すぐに治療を始めないという選択もある?
クッシング症候群について調べていると、必ずしも治療を始めなくても良いという獣医師の見解があることを知りました。
三鷹獣医科グループでは、クッシング症候群について以下のような治療原則をあげています。
- 臨床症状がなければ治療はしない
- 主な不快な症状(多飲・多食・多渇)を抑える
- 飼い主が満足する臨床症状を保てれば良い
- 中毒症状をあらかじめ告げその対策を
- 数値のみを追求して考えすぎないこと
- あくまでも臨床症状を信頼すること
我が家の愛犬は、咳をするようになったので診察を受けたのですが、その時に行った検査でクッシング症候群を発症していることがわかりました。
もし、私がこのような考えがあることを知っていたら、急いで治療を始めなかったかもしれません。
なぜなら、咳は気管支虚脱のせいで、多飲・多尿などクッシング症候群の症状が見られたわけではなかったからです。
数値だけでの判断は危うい?
コルチゾールは、ストレスホルモンとも言われています。
一度も誰かに預けたことなどなかった我が家の愛犬にとって、病院はものすごくストレスになったのではないかと思います。
検査をする為に半日~1日病院に預けなければいけません。
病院という場所や知らない人(獣医師など)やワンちゃんがいる場所で、飼い主さんと離ればなれになってしまうワンちゃんの不安は計り知れません。
ストレスがかかったワンちゃんの数値が上がってしまうこともあるそうです。
数値だけで判断してはいけないという理由の一つではないでしょうか。
また、コルチゾール値は、個体によってかなり違いがあり、クッシング症候群における血中コルチゾール値の「目標値」に対しては柔軟な理解が必要だとも言われています。
雷や花火の音・検査のためのお預かりや入院などのストレスが急激な体調の悪化の引き金になっているワンちゃんの症例も多くあるそうです。

まとめ
どの時点で治療を始めるのか、どの薬を使うのかは難しい問題です。
治療薬としては、効果があって副作用が少ないトリロスタンが一番良いようですが、大型犬になると高価な薬ゆえに簡単に投与できるわけではありません。
また、薬の効果には個体差があります。
クッシング症候群の治療は簡単ではありません。
クッシング症候群になった時、まずはクッシング症候群の治療に詳しい病院にかかり、どのようにするのか獣医師とよく話し合い、治療方針を決めることが大事になってきます。
